ラ・マンチャの男
| 劇団・団体 | 東宝 |
|---|---|
| 公演期間 | 2008/4/5~2008/4/30 公演終了 |
『ラ・マンチャの男』は、ドン・キホーテの物語である以上に、セルバンテスの物語なのである
――1592年の秋、多分、のちに「才知溢れる郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」の作者として知られることになるミゲール・デ・セルバンテス・イ・サァベトラは、公金拐帯のかどでセビリヤの牢獄に投ぜられた。彼が50歳の頃のこととなっている。勿論、これは冤罪であったが、当時の彼は、いわゆる無敵艦隊の名で知られるスペイン海軍の食糧方――身分の低い収税吏であった。その彼が、小説の『ドン・キホーテ』の着想を得、もしくはその稿を練ったのがこの入牢中であったことはほぼ、間違いのない歴史的事実とされている。
ミュージカル「ラ・マンチャの男」は、虚構であり実在のセルバンテスの生涯と何の関係もない。が、両者の間に抜き難い照応があることは、疑う余地のない、事実である。この作品の序文の中でも、作者のデール・ワッサーマンは、
「……上下2巻に及ぶ大作を読み終った時、二つの確固たる結論を得た。その一つはこの原典は劇化することが不可能であり、又劇化すべきでないということ、もう一つは劇化されるものは小説『ドン・キホーテ』でなく、その作者、セルバンテスでなければならぬということである。」(森岩雄・訳)と書いている。
つまり、ミュージカル『ラ・マンチャの男』は、ドン・キホーテの物語である以上に、セルバンテスの物語なのである。
この点を誤解すると、ミュージカル『ラ・マンチャの男』は、分りにくい、難解なものになる。この作品はドン・キホーテ物語の脚色でも、その変形でもなく、ミゲール・デ・セルバンテスという名の、身分の低い、兵士出身のほとんど無名の詩人、劇作家の物語――さらに言えば彼と囚人達の物語であり、彼が、地下牢の囚人達の法廷で自分自身を救うために即興的に上演したのが、「才知あふれる郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」だったという構成をもつのである。だから、ここで展開されるドン・キホーテの物語は、原作の展開に沿いながら、風車の場面、ドルシネアへの滑稽な献身、ムーア人のエピソード、鏡の騎士という風に、原作のかなめの部分をたくみに生かして、笑劇風に仕立直してあるが、ドン・キホーテが貴族の女性ドルシネアと誤解するあばずれ女アルドンサはほとんど創作に近いし、何よりも作品全体に悲痛な陰影をきざみつけて行くのは、5ヶ年間の捕虜生活、結婚の失敗、破廉恥罪の嫌疑による両3度の投獄、窮乏――どのような意味でも成功とは言えなかったこの詩人自身の生涯の不幸なのである。
理想家であり、詩人であり、正直者であることが、泥棒や追い剥ぎ、人殺し等のうごめく地下牢の法廷に彼が告発された理由なのだが、陪審員の寛容を期待して彼が行う弁明、つまり才知溢れる郷士ドン・キホーテの物語の上演は、滑稽で悲惨で、おそろしく不器用なものだ。が、この上もなく高貴で、感動的なものであることもまた疑いをいれない。いわばそれはセルバンテス自身の詩的自画像であり、ここから、セルバンテスが田舎郷士アロソン・キハーノに扮し、キハーノのドン・キホーテが一度はもとの郷士にもどるが、再びドン・キホーテとして死んで行くというこの作品の三重構造が生れて来る。作品を貫くのは、理想家であり詩人であり、夢に生きようとするものの人間的正当性という主題であり、様式は簡潔で堅い。
またそれは、ほんらい習俗的騎士物語へのパロディーとして書かれたドン・キホーテ物語が、いまなお古典的生命力をもちつづけている真の理由でもあり、「一体狂気とは何だ? 現実のみを追って夢をもたぬのも狂気かもしれぬ。夢におぼれて現実をみないのも狂気かもしれぬ。なかでも最も憎むべき狂気は、ありのままの人生に折合をつけてあるべき姿のために戦わぬことだ」(森岩雄・訳)というセルバンテスの叫びは単に1592年のスペインの宗教裁判所だけを意味せず、時代を越える強いアピールを含んでいる。作品の主題と、時代の風潮と安易に結びつける気はないが、この作品が初演された1960年代というのは、周知のようにアメリカの反対制運動がはげしく燃え上がった時代であり、人間の根源的連帯感があたらしく問われていた時代であったことを思えば、その間の事情をも納得出来よう。事実何人かの批評家はこのドラマをアイデンティティのドラマ、と呼んだのである。
作品は最初テレビ・ドラマの形で書かれた。いわゆる長時間ドラマで、それはいくつかの放送関係の賞を受賞し、作者はそれを舞台劇に書き直しブロードウェイに持ち込んだ。勿論だれもそれを上演しようとはいわなかった。奇特なプロデューサーの1人がそれを1年間に限ってオプション(先取り契約)し、その期限も切れる頃、このミュージカルの製作者アルバート・シェルダンと演出家のアルバート・マールが作者に向かって、これをミュージカルにしないかと、申し出た。
作曲家のミッチ・レイが参加したのは勿論、その後である。このミュージカルの成功が、彼に負うところが大きいことは、誰でもが認めている。そしてその成功の原因は年代的にも地域的にも違うフラメンコの様式を、大胆にとり入れたことになる。
トライ・アウトは、地方都市の大学の劇場で行われ、好評に力を得て、アンタ・ワシントン・スクエアでニューヨーク公演の幕をあけた。現在のような演出形式が確立したのはほぼその時期だったという。アンタ・ワシントン・スクエアというのが、もともとリンカーン・センターが出来上がるまでの、ニューヨークの、やや非商業的な製作者や演出家の拠点だったのである。
ここではジャーナリスティックな意味でも巨大な成功をおさめ、ニューヨーク批評家賞その他を受賞した。1年後、ブロードウェイの中心地、マーチン・ベック劇場に移り、そこで国際的な注目をあつめ、やがて世界各地で上演されることになる。日本でも昭和44年に市川染五郎(現・松本幸四郎)主演で帝劇で初演され、彼は招かれてブロードウェイでは英語でおなじくこの作品を主演して、好評を得た。今回の公演は初演以来26回目に当る。
(故佐藤勉氏・東宝演劇部プロデューサー)
今回の公演数は、故佐藤勉氏の原稿をもとに、宣伝室で改定をしました。
見出しも、氏の高潔な文章に触発され、宣伝室で追記しました。名プロデューサーだった、佐藤さんの言葉が思い浮かびます。「幸四郎の偉業は、単にブロードウェイに行ったことだけではない。ブロードウェイからミュージカルの苗を日本に持ち込み育てたことだ」
この公演のファン
まみ- 2008/7/21(月) 13:56
maki-rin- 2008/5/8(木) 17:18
みるこ- 2008/5/5(月) 19:20
夢坂下って雨が降る (オフィス3○○(宇宙堂改め))
美女と野獣 (劇団四季)
FOCUS 4 US (TRANSFORMER)
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ドン・キホーテ (SPAC)
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mini- 2008/3/13(木) 21:35
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ゲストさん


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