【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.30】田中 美里『演じることを楽しみ 役に生きる それが役者にとって大事なこと』(掲載開始日:2008年10月2日)

田中 美里(たなか・みさと)
1977年2月9日生まれ。石川県金沢市出身。
96年、第4回東宝シンデレラコンテストにて審査員特別賞を受賞。翌年、NHK連続テレビ小説『あぐり』のヒロインに抜擢され、女優としての地歩を固める。その後、数々のドラマ、映画に出演。2008年5月には能登半島地震復興支援映画『能登の花ヨメ』で、都会から田舎へ嫁ぐヒロインを演じて好評を得た。

子供のころから人見知りで 役者の素質はまったくありませんでした(田中 美里)

私は、子供のころから人見知りの激しい性格でして、だから逆に、それを心配した親たちにすすめられて、小学生のときに児童劇団に所属していたことがあるんです。

もちろん、「将来は女優に」なんて夢があったわけではなく、塾や習い事に通うような感覚だったと思います。

ただ、私はそのころから本を読むのが好きだったんですが、いくつかの劇で役を演じたときは、本を読みながら物語に浸り込むのと同じような感覚を味わえてとても楽しかったんです。

結局、劇団には2年くらい通いましたが、中学生になってからは演劇とはまったくかけ離れた生活を送っていました。ところが、地元の中学には毎年恒例の行事で、クラス対抗の演劇コンクールというのがあったんです。台本選びからはじまって、稽古をしたり、本番で照明などの裏方をしたりする部分まで、すべて生徒が行うんですが、私は誰もがやりたがらなかった老婆役として舞台に立つことになったんです。

それが「ハマっている」ということで、意外な好評をいただきました。中学生のころの私は、実際の年より上に見られることが多かったからでしょうか。でも、演技がほめられたことは、とてもうれしかったんですね。

引っ込み思案で、役者を目指すような素質はまったくなかった私ですが、こうして振り返ってみると不思議なもので、けっこう早い時期から演劇に関わる経験をしていたんですね。

『あぐり』という役に巡り会えたからこそ、今の私がある(田中 美里)

ただ、高校を卒業して進路を決めるころになってからも、役者という選択肢はまったくなくて、兄にすすめられて受けた東宝シンデレラコンテストのオーディションも、単なる思い出作りのつもりでした。髪型も人前に出るということをまったく意識しないベリーショートで、いっさい緊張せずに臨んだのが逆によかったんでしょうか。審査員特別賞をいただいたときは、とても驚きました。

NHK連続テレビ小説の『あぐり』の出演が決まるのがその翌年のこと。私にとって、周囲の状況がジェットコースターのように変わっていくめまぐるしい年ですね。

でも、デビューとほぼ同時にこのような大役をいただき、半年という長い期間、それに取り組むことができたというのは、とても幸せな経験でした。撮影現場は私にとっては学校みたいなもので、多くの大先輩に囲まれて着付けの仕方から所作、それから「仕事を一緒にする仲間には、必ずちゃんとしたあいさつをしなきゃダメよ」といったことまで、いろんなことを教わりました。

それから相手役の野村萬斎さんは、役に対してとてもこだわりのある方で、身につける小物ひとつに自分なりの考えを反映させているところがとても印象的でした。そういう工夫ひとつで、お芝居がガラリと変わったりして、とても驚いたんです。本物の役者さんというのは、こんな風に演じることを楽しみながら役を作っていくんだなぁと。

今でも「あぐりちゃん」と、私を呼んでくれる方がいらっしゃるんですが、それはとてもうれしいこと。固定したイメージで見られることを嫌う人もいるかもしれませんが、『あぐり』という役に巡り会えたからこそ、今の私があるわけですからね。

突然のスランプ。悩みに悩んだ結果、とてもすっきりした気持ちになりました(田中 美里)

最初に幸せな出会いがあった反動でしょうか。2000年の終わりに私は大きなスランプに陥ってしまったんです。

NHK月曜時代劇ロマン『一弦の琴』で、江戸末期から明治の時代を生きた澤村苗という女性を演じていた時期なんですが、どうやったら苗の喜怒哀楽を表現することができるのか、突然、わからなくなってしまったんですね。その時期、体調を崩していたことも大きな原因だったと思いますが、今思えば、役に入り込み過ぎて、「役を演じることを楽しむ」ことを忘れていたんですね。とにかく悩みに悩んで、楽しむどころか、苦しみながらも演じ続けました。

その後、しばらく休養をいただいて復帰したんですが、つい先日、再びそのときの監督にお会いする機会があったんです。それで、「あのころと比べて成長しているように思えないんです」と相談したんですが、監督は「バカだなぁ」と笑ってこう答えてくれました。

「役者の成長は、坂道を登っていくようなものじゃなくて、階段みたいになっているんだ。悩みながらも演じ続けて、あるときふと以前より高いところに登っていることに気づく。とにかく演じ続けることが大事なんだよ」って。なんだかとても、すっきりした気持ちになりました。

2002年には新国立劇場で上演した『かもめ』にニーナ役で出演したんですが、これも私にとっては大きな転機。実は、舞台の上で演じるというのはカメラの前で演じるのとまったく違ってむずかしく、稽古の日は毎回、居残り練習する日々でしたけど、この経験がきっかけになって、それまであまり見ることのなかった演劇をたくさん見るようになったんです。役者さんたちの生の演技を間近で見るという体験はとても強烈で、ストレス発散につながることを発見しました。観客の目で演劇を楽しめるようになったおかげで、今の私は演じることの楽しさをより深く知ることができたように思いますね。

田中 美里さんへQ&A

Q:最近、ハマってることは?
A:お抹茶をおいしくいれること。母の影響なんですが、仕事の前にいただくと、とても落ち着くんです。
Q:最近の悩みごとは?
A:今は、『山の巨人たち』の台本と格闘中です。シュールで神秘的な内容で。体当たりで臨むしかないですね。
Q:最近、驚いたことは?
A:忙しくてかまってやれないウチの犬。私が帰ってきた途端、おしっこをもらしたんです。ビックリでした。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

世の中にはいろんな種類のお芝居がありますよね。じっくり考えて見なければ理解できないようなものもあれば、気楽に観ることができるものまで。どちらにも独特の魅力があって、楽しみ方がそれぞれあると思うんですね。私も食わず嫌いで演劇を観なかった時期があるんですが、好き嫌いを考えずにいろんなお芝居を観るといいですよ。「観てよかったな」と思う要素は、どんなお芝居にも必ずあると思うんです。

これから演劇をしようと思っている人へ

よく、「役者は幸せ過ぎると芝居ができなくなる」という話を聞くんですが、私は幸せの意味を知っているからこそ、悲しみを表現できるんじゃないかと思うし、幸せの本当のありがたさを知っているほうがいいと思うんです。もちろん、壁にぶつかって悩んだりすることもあると思うけど、そういう経験はきっと無駄ではなくて、人生に幅をもたらせてくれるもの。泣いたり笑ったり、いろんな経験を積むことが大事なんですね。

田中 美里さんの次回公演情報

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「山の巨人たち」

20世紀演劇界に大きな影響を与えたイタリアのノーベル賞作家ルイジ・ピランデルロの未完にして最高傑作といわれる『山の巨人たち』が新国立劇場の舞台に登場する。演劇界の重鎮・平幹二朗、華麗な存在感をほこる麻実れいをはじめ、田中美里手塚とおる綾田俊樹らが、パリの名門オデオン座の前芸術監督ジョルジュ・ラヴォーダンの演出で光り輝く。大人のための"高級なおとぎ噺"に酔いしれよう。

東京公演
2008年10月23日(木)~11月9日(日)
新国立劇場 中劇場
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)