【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.28】江本 純子『優しいものが増えている世の中で、必要悪を見せたい だからこそ、私は野蛮な作品を書き続ける』(掲載開始日:2008年9月18日)

江本 純子(えもと・じゅんこ)
1978年12月22日、千葉県生まれ。
立教大学在学中の2000年、毛皮族を旗揚げ。エロやバイオレンスを交えた狂騒舞台が、多くの熱狂的ファンを生み、結成5年で下北沢本多劇場に進出、小劇場界を牽引する劇団となる。主に脚本家・演出家・俳優として活動する他、小説やコラムも執筆。2008年初主演映画「ドモ又の死」が公開、TVドラマ『東京少女』(BS-i)の脚本を手掛けるなど、その活動は多岐に渡る。
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2回目の公演で大コケして借金抱えたときお金を貸してくれたのは町田だけだった(江本 純子)

毛皮族のスタートは大学の演劇サークルからなんですよ。でも、私がいた立教大ってところはまったく演劇が盛んではなく、むしろつぶれかけだった。だからこそ、人数も少なかったし、好きなことができてかえって良かったんです。それに大学ってスタジオや稽古場も完備されていて環境がすごくいいから、瑣末なことで困ることもないし、集中して芝居が作れる。そんな中で作った作品が学生演劇の大会でグランプリをとったんですね。これをきっかけに調子づいた弱小サークルは旗揚げ公演を行うまでになったんです。

オリジナルメンバーは5人。全員が役者でありスタッフで、舞台監督すらいない状況で旗揚げ公演をしたものの、これが大好評。アングラな感じのチラシに「鬼畜ロマン」なんてタイトルですから、人目についたのでしょうか。旗揚げ公演で500人ぐらい入ったもんだから、ますます調子づいたワケですよ。

その勢いのまま2回目の公演をやるんですが、これが大コケ。旗揚げで500入ってたお客さんが300弱になりましたから。それで赤字を作って借金抱えて、さぁ、どうしようと思ったときに、お金を貸してくれたのが町田(マリー)だけだったんですね。あとは、みんな辞めちゃった。だから3回目の公演の時は、実質劇団員は私と町田の2人だけでしたね。この時は、人を劇場に運ばすにはどうすればいいんだろう、ということを一生懸命考えて、雑誌に情報を出したり、インタビューに答えたりと露出することを覚えたんですよ。2回目の時はそういうことはあまりしませんでしたから。それと、インターネットに『えんげきのぺーじ』というサイトがあり、そのサイト内に『今月のおすすめ芝居』という、演劇媒体で活躍なさっているライターさん達が月間でおすすめ公演を発表していくコンテンツがあったんですけど(現在は停止中)、その中で『毛皮族』という名前が出されることが多くなったこともあり、動員にも徐々につながっていったと思います。

劇団員に「私たち奴隷ですか?」と聞かれて「そうですよ」と答えられるまで時間がかかりましたね(江本 純子)

旗揚げをしてから、ずっと考えていたのは「劇団って何ぞや」ってことだった。劇団公演って「この役者に出番を」とか「この役者にあて書きを」とか、劇団内のことを考えて作らなきゃいけない部分もあるじゃないですか。そういうのをあまり意識せずにやりたいことばっかりやってたら、「自分たちは劇団員」と思っていたメンバーたちに、「私たち、江本さんの奴隷ですか?」と言われたんです。確かに、いつも私と町田が主役で、他の子はアンサンブルと周りからは言われてた。その時は「そんなことない」なんて答えたものの、自分自身もよく答えがみえなかったんです。

でも、それまで放っておいた劇団という組織の悪露が作品にまで直結してしまったのが、2006年にやった「脳みそぐちゃぐちゃ人間」という本多劇場での公演。この時、劇団員内で大暴動が起こりまして。客演を呼び、舞台美術にもガンガンお金使って、ただ「やりたいことをやる」ってことだけで私は完全に暴走していました。それで、私の脚本も酷かったのかもしれませんが、いつの間にかメンバーとの関係がどんどん悪化していました。そして、蓋を開けてみたら大赤字という最悪な結果。この時は、ホントにひどかった。

さすがにそのときは、私はどうしていこうか、何をしていこうかを真剣に考えましたね。その後、最初に取り組んだのは、劇団員だけが出演する1時間の会話劇を書いて、確実にメンバーを育てるための作品を何作か作ったこと。劇団としてのチーム力を上げようと思ったんですよね。ただ、それが続くうちに、書くときに劇団員のことばっかり考えて、何が作品の核なのかが分からなくなってきてしまった。

そこで、昨年ぐらいから私も割り切って、「みんなのための芝居は書きません、私が書きたい芝居をやって、それでも良ければ力を貸して下さい」っていうスタンスを取るようにしたんです。だから、今の毛皮族は厳密な意味では劇団じゃないんですね。劇団というよりチームみたいな感じ。作品でつながるチームでもあるし、私の作品をやるときに集まる信頼しているメンバーたち。法人組織でもない「劇団」のつながり方って、本来ならそれが当たり前のことかもしれませんが、実際そこに行き着くまで、様々に実験的な試みをしながらの結果です。「奴隷ですか?」と聞かれて「そうですよ」といえるまでかなり時間がかかりましたね(笑)。

悪を提示して、そこから答えを見付けて欲しい だから乱暴な方へ向かってしまうんです(江本 純子)

今年、毛皮族は第二次期を迎えました。結成8年目で二次ですから、一次が大分長かったんですが。

じゃあ、何が二次なのかというと、私自身がしっかり本の内容を吟味するようになったことですかね。今更ながら(笑)。いままで脱いでるとか、エロだバイオレンスだエンタメだみたいなイメージでお客さんが集まってきたような気がするんですけど、そういうことも割とざっくりやってたし、私自身、内容よりも「その場で感じるエネルギー重視」な感じでやってましたので、第二次としては団体としても作品としても、もっと意志のあるものにしたいと考えた。これまでの毛皮族に何か足りないものがあったとすれば、それはここ数年エンタメ重視のあまり若干放置してきた、中身(本)かな、と。

自分は社会派だと思っていますから、世の中に出すものは、必要なものでないと出してはいけないと考えています。確かに、今まで娯楽作品として作ってきて、お客さんが楽しんでくれるのは勿論なんですけど、楽しいだけじゃやっぱり違うんですよ。例えば、陰惨な悲劇よりも、人が観て笑うものを作ろうとしていた。観ていたお客さんがハッピーになって、その連鎖で戦争がなくなればいい、なんてところまで考えていたけど、そうするとハッピー志向が強すぎて悪がなくなってしまったんです。それで本当に観てる方に真意が伝わるのかと。

ならば、提示するのは悪で、そこから見つけるのが答えなんじゃないかと思うようになった。

必要な楽しみがあれば、必要な悪もある。それじゃあ世の中に出してどんなものが有益なのかと問われたら、万人が納得する答えなんてない。その辺、演劇は娯楽なのか、芸術なのか、芸能なのか境目がすごく微妙なところですよね。でもその分自由だとも思います。演劇にしかできないことを、って考えると、どうしても乱暴な方向にいってしまいたくなる。

演劇は生身のコミュニーケーションとも思っています。インターネットの掲示板がキッカケで殺人が生まれるような社会に生きている子供達には、是非ウチの芝居を見て欲しい。今、世の中には優しいものが増えてきているから、逆にどんどん汚いものを見せないダメだ、と野蛮なものを書き続けています。

江本 純子さんへQ&A

Q:最近、面白かった本は?
A:貫井徳郎の「慟哭」。ミステリーなんですが、構成力を学ぼうと思って読みました。面白かったです。
Q:最近、ハマってることは?
A:今、執筆中で家にいるので自炊が多いんですが、食材の食べ合わせを考えることにハマってます。
Q:初めて感動したお芝居は?
A:1年間、小劇場を見て回って心に残ったのが大人計画の「ヘブンズサイン」。笑いと感動が一気に押し寄せた。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

自分で観る作品を取捨選択しないとダメですね。人の意見や感想をきっかけに観にいくのはいいとは思うんですが、それを鵜呑みにして観ていると、何も得られないと思いますね。それに演劇って作っている人の生身のエネルギーを感じることができる、という意味ではすごく最強な媒体だと思います。勿論生の人間が目の前で作っている、ってこともありますが。だから、観るというより、その最強の空間を体験しにいくという感覚で劇場に出向いてみては。

これから演劇をしようと思っている人へ

何かに執着することです。半端な気持ちでやると後で辛いんで。そんなときに傷つく勇気を持っていればいいですけどね。あとは貯金してからやったほうがいいと思いますよ。借金が怖くない人はいいですけど、5年は食っていけるぐらいの蓄えがあった方がいいと思いますけど。そして精神的に不健康な人(弱い人)は、やらない方がいいですよ。周りに迷惑がかかるんで。

江本 純子さんの次回公演情報

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毛皮族のアラビアンナイツバイオレンス 「暴れて嫌になる夜の連続」

学生運動ならぬ小学生運動という「革命のための闘争」活動をしている少女達(小6)の夏休み。彼女達は自分達の理想国家を作ろうと、海外に脱出するために成金者の旅行船をジャックする。小6少女達の、野蛮で暴力的な人間関係を乗せた、実にストレスフルな漂流船。ストレスの極限に追いつめられた少女達の行き着く先は・・・。果てなきアラビアンナイトの世界を"毛皮族風"ムーランルージュ的カタルシスを以って、愛と暴力の絶妙でナンセンスな関係を説く、壮大な千夜一夜の物語が開幕する。

東京公演
2008年9月27日(土)~10月5日(日)
新宿THEATER/TOPS
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取材・文/中屋麻依子(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)