【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.26】松尾 貴史『「演劇」ってつまり、「人生」ってことなんじゃないですか』(掲載開始日:2008年9月4日)

松尾 貴史(まつお・たかし)
1960年5月11日、兵庫県生まれ。
大阪芸術大学在学中から「劇団120パーセント」の舞台ナレーションやコンサートの司会などの活動をはじめ、その後、中島らも主宰の「笑殺軍団リリパットアーミー」の旗揚げに参加する。98年には演出家のG2と演劇ユニット「AGAPE store」を結成し、既存の枠にとらわれない作品作りを行っている。エッセイスト、折り紙アーティストなどでも多彩に活躍中。

中島らもさんとの出会いは僕にとって大きな出来事でした(松尾 貴史)

大学在学中、「群」という劇団の人にトイレで「一緒に活動しませんか?」と勧誘されたのが、" 演劇をする人" に初めて触れた体験といえるのかな。でも、その場でお断りしました。気持ち悪かったから(笑)。演劇に対する興味は、当時の僕の中にはまったくなかったんです。

「リリパットアーミー」の旗揚げに参加したときも、その意識はそれほど変わりはなくて、「打ち上げでどんちゃん騒ぎするためにやるんだ」と、中島らもさんに誘われたときの文句通り、連日飲み歩いているような感覚で、「演劇をしている」っていう実感はそれほどありませんでした。もともとこの劇団は演劇畑の人はほとんどいなくて、らもさんがいろんなところから個性豊かな人を集めてきた化け物屋敷みたいな劇団でしたからね。

そのころの僕は、すでにタレント活動をはじめていて、東京と大阪を行ったり来たりする生活で、人生始まって以来の忙しさの最中にいました。にもかかわらず、公演や稽古のために大阪に帰るたび、らもさんからは、とても大事な教えをたくさんもらいました。

例えば、「人の顔色を見て態度を変えるな」とか、「友達だから安くしてくれなんて甘えは許すな」とかね。それから、「褒めるヤツを信用するな」という言葉もよく聞きました。

演劇論というより、人生論といったほうがいいかもしれない言葉だけど、そもそも演劇ってそういうものなのかもしれないですね。

演出家G2との演劇ユニットは、三軒茶屋の居酒屋で生まれました(松尾 貴史)

演出家のG2と出会ったのは、らもさんつながりなんです。らもさんと知り合って間もないころ、テレビのディレクターだった彼を引き合わせてくれたんです。そのころから僕の中ではずっと、彼のことは信頼のおける演出家という認識がありました。ありましたが、一緒に組んで演劇をやろうという話にはなかなかならなかった。

それが実現したのは、出会って10数年後になる1996年のことで、青山円形劇場で僕のライブ「人格懐疑室」の演出をお願いしたのがきっかけで、ふたりで演劇ユニットをはじめることになるんです。

三軒茶屋の居酒屋で「ユニット名は『AGAPE store』なんてどう?」なんてポロッと話した途端、トントン拍子でいろんなことが具体化していきました。G2は、こちらの思いつきをどんどん形にしていく能力に長けたすごい人で、驚かされることが多いですね。

そんな感じですから、僕は「座長」のような立場で劇団に加わっているわけではなくて、よく共演者の方にも「何の権威もない座長ですね」とバカにされるんです(笑)。実際、打ち上げのときの乾杯の発声をやるくらいが唯一の役割で、「AGAPE store」の座長として何か特別なことをやることはありませんからね。

そんな「AGAPE store」の活動が10年を超えるなんて思ってもいなかったことだけど、それだけに、今後の指針もなければ目標もありません。強いて言えば、スタイルを持たないことが「AGAPE store」のスタイルなんですね。

後藤ひろひと君とは、初対面でクイズ合戦で盛り上がりました(松尾 貴史)

「piper」の後藤ひろひと君との出会いも、らもさん、
G2、そして後藤君という具合に数珠つなぎにつながって現在に至るという感じです。ある日、G2が僕に「会わせたい人がいるから」と個室のある居酒屋に連れていってくれて、先に勝手に寝てしまうものだから(笑)、初対面同士でクイズ合戦をして盛り上がったのを覚えています。

その後、「AGAPE store」でも、今まで10回やってきた公演の中、6回も出てもらっていますから「常連」といってもいいんでしょう。だから今回、彼の「piper」の10周年記念公演「ベントラー・ベントラー・ベントラー」に客演者として呼ばれたことはとてもうれしいことでした。

「AGAPE store」で一緒に芝居を作るときは、僕が座長で後藤君が客演者。それが今回は、彼が座長で僕が客演者という逆転関係になるわけですが、実際の関係はいつもとまったく変わりません。

「バカとお守り」と表するのがいちばん適当なのかな。僕が好き勝手なことをやり続けて、後藤君がうまくお守り役をしてくれる。年はむこうが9つも下だし、出身も僕が関西で彼が東北。共通点がまったくないんだけど、それでも、琴線にふれるものがちょっと似ているなと感じる部分はありますね。

僕と演劇との関わりは不思議なもので、こうしたいろんな人との出会いによってつながっているんです。それは決して運命みたいなものとは関係ないとは思っていますが、僕の中で、常にそういう出会いを求める気持ちがあるってことは確かなのかもしれませんね。

松尾 貴史さんへQ&A

Q:最近、面白かった本は?
A:左巻健男さんの「水はなんにも知らないよ」。「ニュアンスは人に伝わらない」と教えてくれる良書です。
Q:最近、ハマってることは?
A:カレーライスが大好きなので、「カレーを食う」ということになりましょうか。
Q:初めて感動したお芝居は?
A:中学か高校か、親父に連れられて観た坂本長利さんのひとり芝居「土佐源氏」。表現の面白さに感動しました。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

小劇場のお芝居を見に行くときは、楽な服装で行きましょう。ただ、コンビニの袋みたいな音のするものは持って行かないで、最低限のマナーをもって。演劇というのは、舞台で起こっていることだけでなく、自分の想像力を駆使して作品に参加することだと思っています。字幕だらけのテレビのバラエティ番組とはまったく違った世界がそこにはあるはずです。どうか、積極的に楽しみに行ってください。

これから演劇をしようと思っている人へ

「なりたい」ということ以上に「なる」ってことが結局大事なことなんじゃないでしょうか。意志とか努力という以前に、選択するということの問題だということですね。語れば語るほど説明が長くなりそうなので、それだけを申し上げておきます。あとは自分で考えてください。

松尾 貴史さんの次回公演情報

「ベントラー・ベントラー・ベントラー」の画像画像を拡大する
Piper 10周年記念公演 「ベントラー・ベントラー・ベントラー」

後藤ひろひと川下大洋山内圭哉腹筋善之介竹下宏太郎の5人からなる演劇組織「Piper」が満を持してお送りする10周年記念公演。ウソと勘違いが織り成す説明不能のバカ・フェスタ2008!見逃した人は損をする。

東京公演 福岡公演
2008年10月8日(水)~10月19日(日) 2008年10月22日(水)
全労済ホール/スペース・ゼロ 福岡市民会館 大ホール
名古屋公演 広島公演
2008年10月25日(土) 2008年10月29日(水)
愛知県勤労会館 広島アステールプラザ大ホール
大阪公演 仙台公演
2008年10月31日(金)~11月3日(月・祝) 2008年11月6日(木)
イオン化粧品 シアターBRAVA! 電力ホール
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)