宝塚に入る理由は、人それぞれだと思いますが、私の場合は典型的な「男役」に憧れて受験を決めたタイプ。10歳ぐらいの頃に、母親に連れられて初めて宝塚の舞台を観ましたが、そこであまりのカッコよさに衝撃を受けたんです。そこから、宝塚の舞台に立ちたい=男役をやりたい、という気持ちになっていったんですね。だから、迷うことなく宝塚音楽学校を受験したし、入学後は迷うことなく男役を希望しました。
けれど、ここまでまったく迷いがなかったからこそ、かえって学校に入ってからは戸惑いました。規則は厳しいし、周りは歌やダンスが上手な人ばかり。不安を吹き飛ばすためにガムシャラに稽古しました。
そんな中、NY公演のオーディションに受かって、初の海外公演に選抜されたんです。
この公演はダンスシーンだけで、ダンスが大好きだった私にとっては、願ってもない状況。
でも、いざ選ばれてみたら、当たり前ですが、みんなすごく上手なわけです。「ダンスが得意」なんて言っても私はダンスを始めたのが12歳ぐらいで、3歳からバレエをやっている子たちから見たら、基礎がまったく出来てないんですよ。この時、基礎ができてないことの差を思い切り知らされました。
おまけに、リンダ・ヘーバーマンという方の振付でクラシックの重要性を知り、かなり劣等感みたいなものを感じましたね。
ただ、彼女からは劣等感だけではなく、ダンスの取り組み方も教えてもらいました。
今までダンスを踊っても、あまり汗をかかなかったのですが、彼女の指導で踊ったら、これまでにかいたことのない位の大汗が流れ出してきたんです。
つまり、私はこの大きな身体を使いこなせず、もてあましていたんですね。
この時から、ダンスへの考え方、取り組み方が大きく変わってきました。
それまでは、バレエよりもジャズダンスばかりレッスンを受けてたんですが、バレエに積極的に取り組むようになりましたね。基礎を忘れていけないことを教えてもらったのです。
当時、配属された星組は男役が多くて、自分がどんな男役になればいいか見えずに、大勢の中でもがいていました。
でも、少しずつ舞台に出させて頂くようになって、宝塚の仕組みというものが分かってきたんです。
お客として舞台を観ていたときは、華やかなトップスターばかり見ていたし、自分もそこを目指したいと思っていました。
けれど実際は、芝居に長けている人や、ダンスがステキな人、歌が上手な人など、本当に色々な役者さんがいて、その様々な個性の中にトップスターがいるからこそ、輝いているんだということが分かったんです。トップ以外に様々な人たちがいて、それぞれに目指す宝塚像が色々あるんだと気付いたんですよ。
それじゃ、自分はどんな男役を目指すのか。いろいろと悩みましたが、最後には、自分のこの大きな身長を生かしつつ、包容力のある人間くさい男役にという目標になったんです。
男役は「こうじゃないといけない」っていう決まりはない。もがきながらも、自分なりの男役像を作っていくことで自分自身の存在場所が見えてきたんです。
在団中で印象的な舞台と言えば、やはり「ベルサイユのばら」でフェルゼンとマリーアントワネット編のフェルゼンに出会った時のこと。
以前、オスカル編でアンドレを演じたときに、この役がすごく自分にリンクして演じられたからこそ、フェルゼン役には不安があった。フェルゼンと自分のイメージがまったく合わなかったし、彼自身の魅力も最初は分からなかったんです。
そこで、フェルゼンの目線で改めて原作を読み、少しずつ入っていきましたが、最初の苦労があったからこそ、演じきったときに達成感が強かった作品なんです。
この役で初の韓国公演に行かせてもらったり、退団を決めたりと、自分の中でひとつの大きな区切りとなった役でしたね。
宝塚退団後、女優活動をする気が起こらず、学業に専念して大学を受験してみようと考えていました。ただ単純に、自分の女優役がイメージできなかった、ってのもあるんですが。
でも「Damn Yankees」のお話を頂いたときに、映画を観て「やりたい」と素直に思ったんですね。
この映画は、古きよきミュージカルといったダンスシーンが満載で、「あぁ、踊りたい」と気がついたらつぶやいていた。
こういう時って頭じゃないんですよ、体のどこかがうずくというか、そんな感じでしたね。
ただ、自分にオファーがきたのは、もちろん女性役。まずは肉体改造から始めました。歩き方からスタートして、動き方やダンス、女性として舞台に上がるためのすべてのことを1から学んだんです。
それまで、トップスターと呼ばれて歌劇団の上級生にいたのが、いきなり一年生なわけですよ。確かに戸惑いや、あせりもありましたが、それ以上に新鮮な気持ちもあった。まったく違うからこそ、初心に戻って吸収できたのかもしれません。
退団後、初の女性役。これが私のターニングポイントでしたね。
確かに宝塚の世界へ飛び込んだことも大きな出来事だったけど、18年間、つまり人生の半分以上いた場所から、新たな一歩を踏み出したことは、最も大きな一歩となりました。
この舞台以降も、男役、女役、両方演じてきてますが、男性役に対しては、宝塚時代とは違いいかにリアルに演じるか・女役に対しては、私にしか出せない役作りをする事を常に考えています。
役に染まるために、役と自分の距離を縮めていく。その中で自分らしくしていきたい。今は、そんな目標のもと舞台に立っていますね。
- Re-Birth
元宝塚男役トップスター湖月わたると、ダンス界を牽引するイケメントップダンサーたちがコラボレーション。ボーカリスト「WATARU」としてオリジナル新曲を初披露するのも注目だ。ボーカルと華麗なバックダンスに、会場が熱気に包まれる。
東京公演 2008年9月23日(火)~28日(日) 品川プリンスホテル「クラブeX」
取材・文/中屋麻依子(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)












