学生時代の夢は、世界一強い男になることでしたね。幼い頃読んだ池上遼一の漫画「男組」の影響です。男たちが悪の組織にぶつかっていく姿を見てたら自分がすごく小さな存在に思えて、とにかく強くなりたかった。
それにすごく貧乏な家だったので、這い上がっていく男たちに憧れもあったんでしょう。漫画が大好きで少林寺拳法を習いながら、将来は強い漫画家になりたいと思ってました。
じゃあ、なぜ演劇の道へ進んだかというと、高校3年の時に出会っちゃったんですね。「ガラスの仮面」に。この漫画を読んで芝居を始めた人は多いと思いますが、僕の場合は劇団一角獣の稽古シーンを読んで、これはおもろいなと。こんな楽しいことなら、おれらもできるんちゃうかなと思ったのが、この世界へ足を踏み入れたきっかけです。
それから高校の同級生である西田シャトナーと脚本みたいなものを書きながら、演劇に傾倒していきました。
シャトナーとは別々の大学に進学したんですが、彼が「はちの巣座」という大学の演劇部に入ったというので、公演を観に行ったんです。そうしたらすごく面白くて、自分も入部しちゃったんですよ。でも、僕が入部して初めての舞台で、公演2週間前に演出家の先輩が失踪。苦労しながらもみんなで演出をしたんですが、これがめちゃめちゃ面白くて「芝居で食っていこう」と決意したんです。
この2年後に、平和堂ミラノも含めて「惑星ピスタチオ」を立ち上げました。この頃は、大学を卒業し輸入食品会社で働いていたので、毎日24時まで仕事をし、ピスタチオの稽古を朝4時からやって9時には出社。休憩時間に台本を書いて、寝るのは電車の中という生活でしたが、でも、楽しくてまったく苦じゃなかった。
惑星ピスタチオではパワーマイムを確立しますが、これは僕がもともと小さい頃からやっていたことを舞台にあげたようなものなんですよ。どんな舞台装置を置くよりも人間がそこにいて息づくだけで美しいし、役者から発するイマジネーションで何もない舞台から色んなものが見えてくる。そんな演劇を目指したかったんです。
しかし、当初は批判も多く演劇専門誌に「腹筋善之介のパワーマイムは稚技だ。あれは芝居ではなくネタである」と書かれたこともありました。だけど「稚技と言われた男を紹介します」なんてイベントで登場し逆手を取ったりして、信じるものを続けていった。結果、バッシングした批評家が、同じ雑誌にベタ褒めの記事を書いてくれるようになるまで時間はかからなかったですね。
この頃のピスタチオは全員タバコも吸わないし、芝居や稽古が終わった後に酒を飲みに行くこともなかった。むしろ、飲みに行けば何故飲めるだけの体力が余っているのか、本気で稽古してなかったのか、なんて言われるぐらい稽古がハードでしたね。よく言えばストイック、悪く言えばすごく縛りのキツイ劇団だった。観客との距離の取り方も分かっておらず、本番が終わった後の出待ちを禁止したり、仲良く話したりなんてほとんど無かったんですよ。
でも、本当にクリエイティブな人たちは、それを観る人たちとも一緒になって良い作品を作りあげていくもの。「これでどうだ」とこちらの押し付けだけじゃ客はついてこない。今思えば、とがりすぎて偏った考え方に、劇団と客との間に温度差ができていましたね。自分たちが信じることをやるけれど、僕たちの信じることがお客さんも信じられるのかということを、もっと検証しなくてはいけなかった。
10年活動してピスタチオは解散となりましたが、このタイミングで僕も役者を辞めようと思っていたんです。当時はプロデュース公演がすごく流行っていて、この公演のために役者とスタッフが集められ、付き合っても芝居が出来上がるまでのは2、3ヶ月。そこに呼ばれる度、切り売り感を感じていたし、「仕事」という割り切りがあって楽しくなかった。名声やお金で幸せになれるもんじゃないと思ってたけど、この業界にいたら自分が商品だから、結局名声を得ないと食っていけない。そんなジレンマから役者が嫌になっていたんですね。
そんな中「仕事」の一環として、ワークショップをやり始めたんですが、これが僕を演劇の道へ引き戻してくれた。初心者の人たちに教えることで、自分がやってきた10年が理路整然と分かってきて、再び演劇の面白さに気付いたんです。この頃、畑を始めたんですが、自分の手で土を耕し育て、実を刈り取り、食べるという行為はとても幸せだと感じた。
演劇を始めたばかりの子たちがどんどん上手になっていく姿を見て、彼らは畑であって、これから実がなるまで育てる、と言うとおこがましいけど、そんな形で一緒にやっていくことに新たな面白さを感じたんです。だから、そのメンバーで更に芝居を研究追求したいを者を集めて劇団IQ5000として立ち上げてしまった。
今までのことを反省して、お客さんを突き放すような舞台作りはしていません。みんなで一緒に作品を作り、最後に本番でお客さんが入って完成するようなものを作っていく。その中に自分の感じたメッセージを入れながら。そうすると、すごくコアな作品が出来上がってきたんです。何でも手に入る時代だけど、集団で一所懸命やっているものを生で見ることは舞台でしか手に入らない。だから演劇は面白いんです。
ちなみに、今は劇団員と酒を飲みますよ。そんなにしばりのキツイ劇団ではなくなったので(笑)。
- RUN AWAY OFF
オリンピックを見る前に観てほしい、真実の世界。世界を駆け抜ける一人の青年と、その青年のために散っていった若者たち。
2005年~06年にかけて上演された「RUN&GUN再編-theater odyssey 05-06 ~大人のエンタテイメント~」をベースにし生まれ変わった腹筋ワールドを目に焼きつけろ。東京公演 2008年7月31日(木)~8月4日(月) 笹塚ファクトリー
取材・文/中屋麻依子(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)












