大学の実技試験で高村光太郎の「道程」を朗読する試験があったんですよ。試験日の朝に渡されて昼休みで覚えるんですが、まったく覚えてないヤツがいて。「なんだコイツ」とすごく印象に残ってたら、そいつも合格していたことには驚いた。「どんなワザ使って合格したんだよ」って。でも、彼との出会いが今思えばターニングポイントなのかもしれない。
彼は、いのうえひでのりさんの高校の後輩で、僕といのうえさんを引き合わせてくれたんです。なんて言うとカッコいいですが、当時、学校の近くに6畳1間の部屋が100室以上詰め込まれている芸大専用の巨大学生アパートにみんな住んでいて、夜な夜ないのうえさんの部屋に押しかけてはつるんでいただけ。でも、その流れで「劇団☆新感線」に参加するようになったんですけどね。
話が前後しますが、僕が舞台芸術学科に入学した理由は役者になりたいというより、変わった学科に行ってみたい、という気持ちが強かったからなんです。だから入学するまで、舞台を見たのは高校の演劇鑑賞会だけだったし、シェイクスピアの「シ」の字も知らなかった。
おまけに、大学を卒業すれば自動的に役者になれるもんだと思ってたんです。完全に職業訓練校と勘違いしてましたね。
そんなゆるい気持ちで入ったものの、いざ勉強してみると楽しくて、授業以外でも仲間同士で舞台を作ってみたり、新感線に顔を出したりと演劇中心の生活が始まっていったんです。
新感線の「つかこうへい三部作」が終わった大学4年の前期ぐらいに、いのうえさんが「このまま大阪に残って新感線を続けるか、東京へ出て行くか決めろ」と劇団員に言いまして。僕は大阪でも役者として認められれば、東京なんてすぐに行けるだろうと呑気に考えていたので、大阪に残ると答えたんです。そしたら「お前は一度、新感線の公演を外から見ろ」と言われ、一旦休団することになったんですよ。今思えば、ハッパをかけたかったのかもしれない。
そんなうち、いのうえさんから「東京に第三舞台っていう劇団があって、そこの鴻上尚史って人はすごく才能があるから、入団オーディションを受けてこい」と言われたんです。第三舞台なんて観た事もないけど、いのうえさんが言うならすごい劇団だろうと、何も考えずにホイホイ東京まで受けに入ったんです。
見事合格はしたものの「すぐに東京へ来てください」とオファーがあり、卒業まで数ヶ月を残しつつ東京にいる先輩の家に転がり込んだんですよ。で、上京したその日から早稲田大学で稽古。この時期は、何がなんだか分からずに、人に言われるがまま動いてましたね。
ただ、ここからが苦労の連続。第三舞台の稽古は新感線とはまったく違った。新感線は、いのうえさんが「こんな動きをしろ」「こうしゃべれ」とイメージをたくさん与えてくれますが、鴻上さんは「はい、やって」の一言。
最初は舞台に立っても本当に何もできなかった。台詞も一つ一つの言い分がたっていて、感情で順番につながるものでもない。だから台詞も覚えにくいし頭に入らない。うろ覚えで稽古場行くと、台本を渡された翌日から立ち稽古で台本を持つのは禁止。もう、鴻上さんから怒鳴られっぱなしですよ。
この頃は、稽古に行くのが本当に嫌だった。毎日稽古に行く直前までゲームセンターで「行きたくねぇ」とグズってましたね(笑)。
大学時代は演技に対して努力するというよりも、好きだからやっている気持ちが大きかったんですが、第三舞台に出演しはじめて4作品目あたりで変わってきた。それは、僕自身に自主性がついてきたんです。
「僕は君らのやったことに対して交通整理をするしかないから、君らがやらないと何も始まらない」という鴻上スピリットが浸透してきたんですよ。今までは誰かの言われるがまま演じていたけど、どんな形でもいいから自分でやっていこうとする考えが根付いた。簡単に言うと、自分が出るシーンは自分で責任を持つことを覚えたんですね。
19年間生きてきて、僕の真っ白いキャンパスに初めて絵を描いてくれたのがいのうえさんという才能のある人だった。その人の紹介で、これまた才能のある鴻上さんと出会い演劇関係の知り合いが増えて、つかこうへいさんのお芝居に出るようになった。20代で天才たちと出会い、最終的にはつかさんまで辿りつけたわけですから、演劇界的に僕は相当運がいい役者だと思いますよ。
役者の世界に足を踏み入れて20年以上経ちましたが、自分でとにかく動くという演技法は変わってないです。ただ、若い時と違い、動きたいから動いたとしても見てるほうにそれが良く見えるか分からない。年齢に合わせた演技のバランスは大切にしています。でも、何歳になったとしても、20代で学んだ2人の天才演出家のスピリットは根付いているし、そこは自分のベースになっていますね。
- ミス・サイゴン
4年ぶりの再演となるメガ・ミュージカル「ミス・サイゴン」。轟音と共に飛来するヘリコプターなど迫力の舞台装置や、エネルギッシュな演技は1秒たりとも目が離せない。よみがえる「究極の愛」に帝劇中が涙に包まれる。
東京公演 2008年7月18日(金)~10月23日(木) 帝国劇場
取材・文/中屋麻依子(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)












