【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.10】寺脇 康文『自分で作った枠は自分自身で壊していく 井の中の蛙になったら役者は終わりだと思う』(掲載開始日:2008年5月15日)

寺脇 康文(てらわき・やすふみ)
1962年2月25日、大阪府生まれ。高校卒業後、俳優養成所を経て1984年「スーパーエキセントリックシアター」に入団。10年在籍した後、盟友・岸谷五朗と共に企画ユニット「地球ゴージャス」を結成し、公演ごとに多彩なゲストを招き話題となる。現在、ドラマ、舞台の他、様々な分野でも活躍中。

苦労しても構わないと思える仕事を考えたら、役者に行き着いた(寺脇 康文)

もし、大学受験を失敗していなければ、今ここでインタビューを受けることはなかったかもしれません。

志望校に落ちて、予備校に通いながらスーパーの総菜屋でアルバイトをしてたんですが、初めて給料をもらった時、すごく衝撃的だったんですよ。給料袋を覗いてみると1万円札が何枚も入っている。嬉しかった反面「これから先、オレは自分で金を稼いでいかなきゃいけないんだ」と気付いたんです。

それじゃあ、何をやって稼げばいいんだろ、と思った瞬間、予備校って何のために通っているんだっけ、そもそも大学へ行ってオレは何をしたいんだ、と疑問が頭にグルグル回り始めたんです。

そこで出た答えが「自分が苦労しても構わないと思う職業に就きたい」ということでした。きっと、サラリーマンになって営業成績が悪いと怒られたら落ち込む。でも、演技でヘタクソと言われても頑張れるんじゃないかとひらめいた。もともと、人の前に出るのが好きで、なんとなく役者という世界が気になっていたのが、ここで「役者で食う」という確信に変わったんです。

それから名古屋の俳優養成所を受けて、合格通知が家に届いたときは「これで俺もスターだ」と有頂天になったものです(笑)バイトの給料をもらってから半年後には養成所に通い始めてましたね。

スーパーエキセントリックシアターとの出会いは役者のベースを築いてくれた(寺脇 康文)

養成所に半年通った頃、東京本社でやってみないかと声がかかったので、喜び勇んで上京したのが20歳そこそこの時でした。

でも、養成所では週に1回レッスンがあるだけで、残りの6日はバイトの日々。これじゃ埒があかないと、もっと実践的に役者活動ができる劇団へ入ろうと考えたんです。

この時期は本当に色々な劇を見ましたが、そんな中出会ったのが「スーパーエキセントリックシアター」。僕が観たのは「リボンの騎士」という劇で、笑いあり、踊りあり、アクションありで、特に三宅(裕司)さんと小倉(久寛)さんの掛け合いが面白すぎ。気がつけば声を出して大笑いしてたんです。今まで何かを見て大笑いするなんて滅多になかったのに。まさにこの「笑い」がターニングポイントでした。

そこから、入団試験を受けて3~400人の中から選ばれた時は、今度こそ「これで俺もスターだな」と思ったわけです。ただ、スーパーエキセントリックシアターは特殊な劇団で、演技よりも踊りか、バク転ができないと舞台に立てないんですね。だから入った当初はマット運動とアクションばかりやってました。

そんな自分に初めて貰えた役が「兵士H」でした。台詞も1フレーズぐらいしかない端役ですが、何度やっても座長の三宅さんから「寺脇、覇気がない」って言われるんです。それも何日も。頑張ってるのになぜ、と思い悩み座長に相談したら「もっと思い切りやればいいんだよ」と一言。この言葉ですごくクリアになったんですよ。

それまで「自分の演技はこんな感じ」と枠を作っていたことが分かったし、それを自分自身で壊して広げていくことが必要であると。このことを教えてくれた三宅さんとの出会いは本当に大きかった。

「拍手地団駄付き」の笑いを見る為に舞台に立ち続けていますね(寺脇 康文)

スーパーエキセントリックシアターで主役を取り、外で勝負できる自信がついてきた頃、「暖簾分けをさせてください」という形で退団しました。

それで(岸谷)五朗と「地球ゴージャス」を組むんですが、ここが第2のターニングポイントでしたね。劇団って年に1回は公演を打たなきゃいけないとか、劇団員全員を出さなきゃいけないとか、どうしても決め事があるじゃないですか。でも、舞台ってもっと自由なもんだよな、と考えたときに自分たちのやりたい演目に賛同した人が舞台にあがる、そんな形の劇があってもいいんじゃないかと思ったんですよ。

ただ、ここでの座長は僕と五朗。ともすれば井の中の蛙になってしまうことを役者として、演出家として恐れる気持ちもあります。もう「覇気がない」って言ってくれる人はいないので。だから、このユニットでは様々な人を呼んで、枠を破りながら舞台を作り上げたいんです。自分の可能性を広げていくって感じですかね。

今まで9本の芝居を打ってますが、ベースにあるのは「笑い」。僕にとっての最高級の笑いは「拍手地団駄付き」なんです。お客さんの笑い声と拍手と足をバタバタ踏み鳴らす音が劇場中に響く。これを一回経験してしまってからは、もうヤミツキ。この音を聞くために舞台へ上がってると言っても過言じゃないんです。

もし、今、スターになったかと聞かれたら答えはNOですね。スターではないけど、演劇人であるし、役者なのは確かです。

寺脇 康文さんへQ&A

Q:最近、面白かった本は?
A:伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー」。読んですぐに、これは映画にしたら面白いと思いました。そして、自分が主役を演じたら、もっと面白いかなと(笑)
Q:初めて感動したお芝居は?
A:やはりスーパーエキセントリックシアターの「リボンの騎士」。初見の翌週にもう一度見たら、三宅さんの台詞が先週と違うんです。これがアドリブか!と。
Q:最近、ハマってることは?
A:水泳をしてます。体力作りでジョギングをしてたんですが、膝を痛めてしまい、水泳がいいと聞いたもので。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

演劇は観に行く最初の一歩が踏み出しづらいと思いますが、まずは自分好みの舞台を見つけて、少し苦労してでも足を運んでほしいです。舞台の台詞は言ったそばから消えてしまうはかないもの。記録には残らないけど、記憶に残るものですから、その経験を楽しんでみて欲しいですね。

何を観ていいか迷っている人は、第一歩として「恐竜と隣人のポルカ」を観て頂けたら嬉しいです。難しい内容は一切ない、お腹から笑えるコメディなので、オススメですよ。

これから演劇をしようと思っている人へ

なかなか厳しい世界ですよ。ただ、自分が役者に向いていると自分で信じられるうちは続けてください。例え、演出家や監督にダメと言われても、そこで決めてはいけない。ちょっとでも自分を疑ってしまったらそこで終わりですから。僕が何度も「スターだ」と思ったように自信を持って進んでください。

寺脇 康文さんの次回公演情報

恐竜と隣人のポルカ「K/T BOUNDARY- ケー・ティー・バウンダリー」の画像画像を拡大する
恐竜と隣人のポルカ K/T BOUNDARY- ケー・ティー・バウンダリー

笑いと感動の大王、後藤ひろひとが今回贈るのは、またもや奇想天外ノンストップコメディ。とある仲良しの隣人同士が主人公。片方の家で恐竜の骨が見付かったことから、ドタバタの大騒ぎが始まる。笑いすぎて腹の皮がよじれること間違いなしの作品。

東京公演
2008年5月24日(土)~6月15日(日)
PARCO劇場
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取材・文/中屋麻依子(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)