- 坂元 健児(さかもと・けんじ)
- 1971年12月22日生まれ。宮崎県出身。昭和音楽芸術学院ミュージカル科を卒業した後、95年に劇団四季に入団。ロングランミュージカル「ライオンキング」で初代シンバ役を務める。01年に劇団四季を退団してからは、「レ・ミゼラブル」など各種ミュージカルで活躍する一方、自主公演やコンサート活動も行っている。
僕にとって、演劇をやろうと思ったのが、大きなターニングポイントと言えるでしょう。なにしろ高校を卒業するまではずっと器械体操にあけくれていて、それ以外のことはまったく考えてなかったですから。もちろん、体育大学に進んで指導者の道に進むという選択肢もあったんですが、試合で技がピタッと決まったときに会場から拍手をもらえた、あの晴れがましい気分にどこか未練があったんでしょう。テレビで見たミュージカルの劇場中継でバクテンをしている人を見て、「ここが僕の居場所だ!」と思ってしまいました。かなり安易な選択です(笑)。
それが、高校を卒業した年の3月のこと。普通なら、養成所の募集もとっくに終わってる時期なんですが、昭和音楽芸術学院(2006年度末で閉校)に問い合わせてみると、ちょうど男性生徒が足りなくて困っていたとかで、ミュージカル科に滑り込みで入ることができたんです。
ただ、運がよかったなと思うのは、男性の生徒が足りないだけに、ろくに競争もせずに大きな役をいただけたこと。最初は「バクテンならオレにまかせろ」なんて気持ちで始めていましたから、歌をうたったり、セリフをしゃべってお芝居するのはとても大変でした。が、大舞台を踏むチャンスに恵まれたことで、無我夢中でそれに没頭することができました。
ミュージカルというのは、ある意味、体力勝負のところがあって、俳優は舞台の上でセリフをしゃべるだけでなく、歌をうたえなくてはならないし、ダンスも踊らなければいけない。しかも、歌いながら踊るというシーンもあって、訓練をつまなければ息があがってしまうものなんです。
実際、ブロードウェイの俳優さんたちの歌を初めて聞いたとき、その圧倒的な声量と歌唱力に驚かされて、僕には絶対にまねできないと思いました。
だけど、もともと僕はガチガチの体育会系にいたせいか、自分を鍛えることに慣れていたのが幸運でした。そのために僕がどういう訓練をしたかというと、まず、そういう人たちの曲をテープに録音して、ラジカセ持参でカラオケボックスに行くんです。そして、店員さんが不思議そうな目で見てくるのも構わず、テープに向かって1日中、大声を張り上げる。そうすると、さすがにノドがダメになりますが、2日休めば元に戻ります。それからまた1日中、カラオケボックスで声を出す。この方法でずいぶん歌えるようになりました。
あと、ミュージカルの舞台は風邪をひいただけで台なしになってしまうほど、公演中の健康管理は大事なんですね。で、数年間の試行錯誤の末、僕は公演中に絶対に風邪をひかない方法を編み出しました。どんな方法だと思いますか?
それは、稽古中に朝まで飲んでみたり、プールで泳いだあとに頭を乾かさずにいたり、ちょっとした無茶をして風邪をひいておくんです。そして、その風邪を本番の時期に向けて直しておくと、免疫が効いているから絶対公演中に風邪はひかないです。
こんな日々の繰り返しで、とにかく無我夢中で舞台に取り組んでいました。
そんな中、僕の中で第2のターニングポイントが訪れたのは、劇団四季に入団して5~6年たったころ。
最初に話したように、安易な理由で演劇の世界に入ったせいか、僕は演劇というものに必要以上に凝り固まったイメージをもっていたのかもしれません。例えば、前衛的なアート作品を見てまったく意味が理解できなくても「すごくよかったよ」と言ったりして背伸びをしてしまうところがありました。その後、劇団四季に入団してからも、ますます演劇を崇高なものと考え、名門の看板にキズをつけてはいけないと思って頑張ってきました。
だけど、演劇ってホントにそういうものなのかって、疑問がわいたんですね。
原因はいくつかありますが、大きなきっかけは、生瀬勝久さんと渡辺いっけいさんの「マンガの夜」という2人芝居を見たことでした。とにかく面白いお芝居で、テレビ放映された公演を録画したテープは何百回と繰り返し見ましたが、そのたびに笑える。
今、そのとき思ったことを言葉にすると、こういうことだと思います。演劇って、背伸びしてカッコをつけたり、わかったふりをしていればいいものじゃない。自分自身が心から楽しんで演じることができるからこそ、いい表現ができるんじゃないかって。
その思いが、劇団を退団する決意につながりました。それまでやってきたことを否定するつもりはないです。でも、新しいことをやりたいという気持ちがある以上、そのまま同じ場所に居続けることはできないと感じました。
その決断があって、今の僕がある。こうして考えてみると、僕は本当にチャンスやタイミングに恵まれているなと思います。
取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/石井和広(TFK)













